7月6日、聖路加国際大学にて、神谷英美子さんをお迎えして講演会が開催しました。
サンフランシスコのダウンタウンで、国籍、人種、性、在住資格など、一切のバリアを取り払って、誰でも無料でケアを受けられるグローバルな無料診療所を立ち上げた神谷英美子さん。
その背景には、アメリカが抱える医療格差がありました。最新の医療技術をもつ一方で、医療保険を持てない貧しい人たちは公立病院で最低限のケアを受けるしかありません。そのため、サンフランシスコのダウンタウンでは、貧しい人たちが公立病院で長い列を作り、重篤な緊急患者のケアが滞るという問題がおきていました。
それなら、貧しい人たちが住む地区に、無料クリニックを作れば、公立病院の負担が軽減されるのではという発想で、国や市に資金援助を申請して、医師、看護師、看護助手、MSWらが協力して作りあげました。ユニークな活動の中には、性転換者への無料性ホルモン剤配布も含まれます。貧しい人たちへの無料クリニックで、ホルモン剤配布?と思うかもしれませんが、これは、HIVや肝炎などの感染症予防対策でもあるのです。ゲイの多いサンフランシスコですが、同性愛者への理解は高まっているのに対し、性転換者への偏見は根強く残っています。同性愛者は就職が難しく、売春に従事する者もいます。性転換後に継続して投与しなければならない高価なホルモン剤が買えないと、闇市で汚染された薬剤を回し打ちする危険があるので、ホルモン剤を配布することで感染を予防しているのです。神谷さんらのクリニックは成功し、市の感染症は減少しました。地元の大学から医学生や看護学生が研修にも来ています。「ホルモン剤を配布することに対して反対意見はなかったのか?」との質問に対して神谷さんは、「どんなことでも、初めてやろうとすれば、反対する人がいる。いいと思ったら、やるのがアメリカ。反対意見は聞かないようにする。」と答えました。
神谷さんは、国際保健を志して渡米しましたが、アメリカの中にも医療格差があることに気づき、マイノリティーの健康支援活動に従事してきました。現在は、医療格差を無くすための政策提言やガイドライン作成のために、CDCで研究員として働いています。講演会には、学部生と大学院生20名が参加し、カップケーキを食べながら、和やかに神谷さんと交流しました。